「賭け事をしないことこそ勝利」― 暗いトンネルの果てに目覚めた人々の省察

人生には、あまりにも単純でありながら、人々が気づかずに通り過ぎてしまう真理がある。「賭け事をしないことこそ勝利」という言葉はその最たるものだ。一見すると平凡で、華やかさも力強い表現もない。しかしその中には、人間の本質、迷い、欲望、そして自己を取り戻すための長い旅路が凝縮されている。ギャンブルに溺れた経験を持つ人々は、この言葉の重さを自らの人生で理解し、唯一の勝ち方は「完全に離れること」であると悟る。

人が賭け事に惹かれるのは、お金のためだけではない。もし本当にお金だけが目的なら、労働の方が明確で健全な道である。賭け事が人を惹きつけるのは、心理の深層を刺激するからだ。リスクに向き合う興奮、結果を待つ緊張、そして「大当たり」を夢見る淡いが強烈な希望。サイコロが止まる直前やカードがめくられる瞬間、脳は勝利そのものよりも強いドーパミンを放出する。この生物学的仕組みが依存を生む。勝つことへの依存ではなく、「運に身を任せる感覚」への依存である。負けるたびに取り返したくなり、失うほどに小さな希望にしがみつき、深みへと沈んでいく。

心理学ではこれを「期待―失敗―期待のループ」と呼ぶ。ギャンブラーは本当の確率を見ず、人生逆転の可能性だけを見続ける。負けるたびに「次こそは」と思い込み、やめられない。これは「コントロール錯覚」という認知の歪みによるもので、実際には存在しない法則を見抜いたと錯覚し、欲望に支配されていく。

仏教の視点から見ると、賭け事は単なる遊びではなく「無明」の表れである。仏陀は「渇愛が苦の原因である」と説いたが、賭け事はまさにその渇愛の結晶である。ギャンブルは金を奪うだけでなく、正念と清明さと自制を奪う。因果を忘れ、運任せに未来を委ねると、人は苦しみの根源へ向かう。さらに深みに落ちるほど、貪欲と迷妄は強まり、不善業が積み重なる。

ベトナムの古人もこれを深く理解していた。「賭け事は貧乏の親戚」という諺は警告であると同時に、長年の知恵の結晶でもある。「数字賭博をすれば堤防に住む羽目になる」という民謡も、現実逃避と無責任さを皮肉る言葉だ。賭け事は人の品格と責任感を蝕み、家庭崩壊さえ招く。多くの家は貧困で壊れるのではなく、人が賭け事で人格を失うから壊れる。

賭け事は希望を毒に変える。希望は本来光であるはずなのに、賭け事では闇となる。負ける者は取り返そうとし、勝つ者はさらに勝とうとする。しかしどちらも同じ結末へ向かう。最後になって初めて、人は暗闇のトンネルの端に小さな光を見る。すべてを失ったとき、初めて人は底に到達し、そこからようやく浮上しようとする力が生まれる。仏教の「苦を知ることで初めて覚醒する」という教えと同じである。

古代の学者たちは「不義の金では人生は支えられない」と教えた。努力から生まれない一文銭は、人生を支える力を持たない。運頼みの富は土台にならない。このため「賭け事をしないことこそ勝利」は単なる助言ではなく、伝統的な叡智でもある。

賭け事は人を現実から切り離す。失望や不満から逃れるための一時的な避難所を与えるが、ゲームが終わると問題は何倍にも重くなる。回避は人を弱くし、精神的にギャンブルへ依存させる。仏教ではこれを「妄想の中に生きる」と呼ぶ。

しかしギャンブルを捨てた人は、長い夢から目覚めたように蘇る。自制と勇気と責任を取り戻し、人生は運ではなく行いによって変わることを学ぶ。努力は善い因となり、清らかな心は安らぎをもたらす。安眠できる夜は、どんな大当たりよりも価値がある。

だから「賭け事をしないことこそ勝利」とは悪習を避けるためだけではない。これは生き方の哲学である。真の勝利とは、他人より金が多いことではなく、心の平安、家族の幸せ、人としての品格を守ることだ。そのための第一歩は驚くほど単純である。賭け事をしない。それだけで人は勝利する。