小さなメイと「ありがとう」を言う森

声を上げようとしない森

むかしむかし、緑豊かな谷の奥に、銀葉の森のそばにある小さな村がありました。村人たちがその森をそう呼んだのは、風が吹くたびに葉が揺れ、日差しの下で銀のかけらのようにきらきらと輝いたからです。

黄色い竹の垣根に囲まれた家に、小さな女の子が住んでいました。名前は小さなメイ。明るい目をしていて、黒い髪はいつも青いリボンで結んでいました。そして、おばあさんをとても喜ばせる習慣がありました。何かを受け取ると、いつも「ありがとう」と言うのです。

小さなメイは、温かいご飯をよそってもらえばおばあさんにありがとうと言い、低い椅子を直してもらえば大工さんにありがとうと言い、風に飛ばされた布を拾ってくれれば、ぶち模様の犬のドムにもありがとうと言いました。でも、彼女が感謝する相手は人や動物だけではありません。毎朝、森へ続く道を通る前に、小さなメイはよく身をかがめて言いました。

「やわらかな草さん、足を支えてくれてありがとう。小川さん、冷たい水をくれてありがとう。木々さん、日差しをさえぎってくれてありがとう」

それを聞くと、ドムは首をかしげ、村の子どもたちはくすくす笑いました。返事のできないものに話しかけている、と言うのです。

「木や草が聞いているわけないよ!」村でいちばん口の達者な男の子、ティー・スンはいつも言いました。「もし聞いているなら、どうして一度も返事をしないの?」

小さなメイは、ただ微笑みました。聞こえたことすべてに、すぐ返事をする必要はないと思っていたのです。

不思議な兆し

ある夏のこと、銀葉の森は突然、静まり返りました。朝早くに鳥は鳴かず、小川の流れは弱々しくなり、銀色の葉はかすかに揺れたあと、ぐったりと垂れ下がりました。大木の根元では、たくさんの若芽が土の中で身を丸めたまま、伸び上がることができずにいました。

村人たちは心配しました。残っていた雨水を受けるために大きなかめを出しましたが、雨は降りませんでした。小川の水源を探しに行っても、慣れた道は枯れ枝や砕けた石でいっぱいになっていました。

ある夕方、村長は村人たちを集会場の庭に呼びました。森がこのまま枯れ続ければ、人や家畜に十分な水が行き渡らなくなる、と話しました。皆は長い時間話し合いました。水を引く樋を作るために古い木を切り倒そうという人もいれば、村を離れて別の場所へ行こうという人もいました。

小さなメイはおばあさんのそばに立ち、黙って森のほうを見つめていました。そのとき、彼女は大木の幹に月明かりのようなぼんやりした光の筋があることに気づきました。その光は一滴の水の形になり、すぐに消えました。

その夜、小さなメイは眠れませんでした。月が高く昇ったころ、窓の向こうから、とてもかすかな音が聞こえました。鳥の声でも、風の音でもありません。それは森のほうから長く響いてくる、ため息のような音でした。

彼女はドムを起こし、薄い上着を羽織って、油灯を手に取りました。おばあさんはぐっすり眠っていたので、小さなメイは机の上に紙切れを残しました。「森へ行って、何が起きているのか調べてきます。空が明るくなる前に帰ってきます」

木の根元のささやき

夜の森へ続く道は、いつもより冷え冷えとしていました。ドムは小さなメイの足元にぴったり寄り添い、ときどき枝の折れる音を聞くと、小さく吠えました。小川のそばまで来ると、水は石の間できらめく細い帯のようにしか残っていませんでした。

「小川さん、痛いの?」小さなメイは尋ねました。

返事はありませんでした。彼女は腰を下ろし、水の流れをせき止めていた枯れ葉や折れ枝を手で取り除きました。ドムも鼻先で枝を脇へ押しやりました。すると、水は少しだけ速く流れ始めました。

小さなメイは微笑みました。

「ここまで流れてきてくれて、がんばってくれてありがとう」

彼女がそう言い終えると、水面が揺れました。小川の底から、ささやき声のように細い声が聞こえてきました。

「その言葉を聞くのは、ずいぶん久しぶりだ」

小さなメイは驚いて辺りを見回しました。水草の間から、小さな魚が頭を出しました。

「あなたは誰?」彼女は尋ねました。

「私は小川だ。昔は皆が水をくみ、野菜を洗い、木々に水をやっていた。けれど日がたつにつれ、人々は枯れ枝や果物の皮、土や石を私の中へ投げ込むようになった。水が必要なときだけ私を思い出し、私にも世話が必要だということを忘れてしまったのだ」

小さなメイはうつむきました。以前、何枚の葉がいちばん遠くまで流れるか競争するために、子どもたちが小川へ葉を投げているのを見たことを思い出しました。大人たちが水の濁りに気づかないまま、岸辺で野菜かごを洗っていたことも思い出しました。

「みんなの代わりに謝ります」彼女は言いました。「私が小川をきれいにするのを手伝います」

「一人ですべてを代わりにすることはできない」と小川は答えました。「だが、一人でもよい行いを始めることはできる」

大木と忘れられた贈り物

小さなメイは森の中央へ向かって歩き続けました。そこには森でいちばん大きな大木がありました。幹はとても太く、大人が四人、手を広げて囲もうとしても届かないほどでした。以前は、根元にいつも黄色い花が咲いていました。けれど今は地面が枯れ葉で覆われ、枝は疲れた肩のように垂れ下がっていました。

小さなメイは油灯を地面に置きました。

「木さん、私の声が聞こえる?」

しばらくすると、幹がきしみました。森には風がないのに、高いところの葉がかすかに揺れました。

「聞こえている」と大木は言いました。「これまで、たくさんの足音や、斧の音、人々が呼び合う声を聞いてきた。だが、ありがとうという言葉を聞くことはめったになかった」

小さなメイは、ざらざらした樹皮に手を触れました。

「みんなに木陰をくれて、鳥に巣を作らせてくれて、土が水を保てるようにしてくれて、ありがとう」

銀色の葉が一枚、彼女の手のひらに落ちました。その葉の上には、宝石のように輝く、透き通った露のしずくが一つありました。

「これは、私の根に残された最後の露のしずくだ」と大木は言いました。「村に贈りたい。だが、この贈り物が目を覚ますには、人間が受け取ったものはすべて、守っていかなければならないと忘れないことが必要なのだ」

小さなメイは葉をとても大切に持ち上げました。露のしずくを村へ持ち帰り、奇跡が起きるのを待つだけではいけないとわかっていました。皆が小川を汚し、枝を折り、森の世話を忘れたままなら、その露のしずくも誰も救うことはできないのです。

小さなことから始まる朝

空が明るくなり始めるころ、小さなメイは村へ戻りました。おばあさんは彼女をぎゅっと抱きしめ、村長や多くの人々も駆け寄って、何があったのか尋ねました。小さなメイは聞いたことを話しましたが、ティー・スンは吹き出しました。

「木が話して、小川が嘆くって? きっと夢を見たんだよ!」

小さなメイは言い争いませんでした。ただ、露のしずくが乗った銀色の葉を村長に渡して、こう言いました。

「私の言葉を信じられないなら、私と一緒に小川をきれいにしてください。たとえ木々が話せなくても、木々には私たちの世話が必要です」

おばあさんが最初に腕まくりをしました。小川の岸にある枯れ枝を拾いました。村長は若者たちを呼び、崩れた岸辺を直させました。大人たちは子どもたちに枝や葉の分別を教えました。ティー・スンもまだ疑ってはいましたが、黙ってごみでいっぱいのかごを岸へ引き上げました。

作業は午前中いっぱい続きました。もう誰も小川にごみを捨てませんでした。水をせき止めていた枝は集められ、枯れ葉は木の根元に柔らかな土の層を作るために堆肥にされました。人々は家畜が小川の岸を踏み荒らさないよう、小さな水飲み場も設けました。

小川の流れが通るようになると、小さなメイは銀色の葉を一枚の平らな石の上に置きました。露のしずくは水の中へ落ちました。最初は何も起こりませんでした。ティー・スンは自分の言ったとおりだったと言おうとしましたが、ちょうどそのとき、小川の底から澄んだせせらぎの音が響きました。

水は少しずつ増え、石の間をすり抜けて、村のほうへ流れていきました。木々の枝では、鳥たちが鳴き始めました。土の中の若芽は殻を破り、鮮やかな緑色で顔を出しました。

しばらくの間、誰も何も言いませんでした。そのあと、小さなメイのおばあさんが微笑みました。

「森は、私たちに大きな声でありがとうと言ってほしいわけではないのかもしれないね。森が必要としているのは、行動で感謝を示すことなんだよ」

森の返事

その日から、村の人々は多くのことを変えました。どの家にも、ごみや枯れ葉を集めるためのかごが置かれました。子どもたちは枝を折ったり、鳥を巣から追い出したりしないように言われました。小川で水をくむ人々は、いつも岸をきれいに保ち、必要な分だけ水をくみました。

毎週の初めの朝、村人たちは一緒に森を一周しました。若木を調べ、小さな水路を掘り直し、森にあるはずのないものを拾いました。小さなメイが草や木や小川に身をかがめてありがとうと言っても、もう誰も笑いませんでした。

ティー・スンは、いちばんたくさんありがとうと言う人にさえなりました。ある日、彼は小さなメイのところへ走ってきて、自慢げに言いました。

「さっき、アリの巣にありがとうって言ったんだ。木の根元に落ちていたパンくずを片づけてくれたからね」

小さなメイは尋ねました。

「アリの巣は返事をした?」

ティー・スンは考えてから、笑いました。

「言葉では返さなかったよ。でも、アリたちを踏まないように横へよけたら、アリの群れはもっと速く進んでいったんだ。それも返事の一つだと思う」

その後、銀葉の森は再び豊かな緑に包まれました。高いところの葉は今も日差しの下で輝き、小川は村の中を流れ続け、大木は大きな屋根のように枝を広げて、そこに立ち続けました。

月の明るい夜、森のはずれでじっと立っていると、葉がさらさらと揺れる、やさしい言葉のような音が聞こえるという話があります。風の音だと言う人もいます。森の木々の声だと信じる人もいます。

けれど、小さなメイにははっきりわかっていました。それは、自分が持っている贈り物に気づき、その贈り物を毎日大切にできる人たちへ、森が贈るありがとうの言葉なのです。

子どもたちへの小さな教訓

ありがとうは、礼儀正しい言葉を一つ言うだけではありません。本当に感謝していれば、受け取ったすばらしいものを守りたいと思うようになります。お父さんやお母さんにありがとうを伝えることは、自分でおもちゃを片づけることから始められます。自然にありがとうを伝えることは、ごみを捨てないこと、水を大切に使うこと、木々や動物にやさしく接することから始められます。小さな行いでも、続けていけば、家族や学校、そして私たちが暮らす地域全体に大きな変化をもたらすことができるのです。